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静岡地方裁判所 平成2年(行ウ)12号 判決

静岡県清水市西大曲町一〇番一五号

原告

村上倉司

右訴訟代理人弁護士

白井孝一

清水光康

杉山繁二郎

静岡県清水市江尻東一丁目五番一号

清水税務署長

被告

中村修

右指定代理人

東亜由美

田部井敏雄

鈴木朝夫

白井正彦

森健

鈴木幸雄

種村敏

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して、平成元年一月一八日付けでした、昭和五九年分所得税更正処分のうち総所得金額二二八七万六〇一八円を超える部分並びに重加算税及び過少申告加算税(平成元年六月二七日付加算税変更決定処分後のもの)の各賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五九年分(以下「係争年分」という。)の所得税について、別表1「本件課税処分の経緯」の「確定申告」欄記載のとおり、法定申告期限内に確定申告(青色)をしたところ、被告は、平成元年一月一八日付けで、同表「更正・賦課決定」欄記載のとおり、更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定をし、過少申告加算税賦課決定については、平成元年六月二七日付けで加算税変更決定処分がされた(以下一括して「本件各処分」という。なお、過少申告加算税賦課決定については、右加算税変更決定後のものを「本件過少申告加算税賦課決定」という。)。

原告は、本件各処分に対し、平成元年二月二〇日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、平成二年九月二八日付けでこれを棄却する旨の裁決がされた。

2  しかし、本件更正処分の総所得額二二八七万六〇一八円を超える部分及び本件重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定はいずれも違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁(本件各処分の根拠及び適法性)

1  本件更正処分の適法性

(一) 総所得金額 一億九六七二万三二六四円

右は原告の係争年分の総所得金額であって、その内訳は(1)ないし(3)のとおりである。そして、本件更正処分における総所得金額である一億七八五五万九一一四円は右の範囲内にあるから、本件更正処分は適法である。

(1) 事業所得の金額 一九三七万八六七〇円

右は原告の確定申告額と同額である。

(2) 利子所得の金額 一五万七三四八円

右の原告の昭和五九年中の普通預金、定期預金の利息に係るものである。

(3) 雑所得の金額 一億七七一八万七二四六円

雑所得の金額は、次の(a)、(b)の合計額である。

(a) 金銭貸付による利息収入に係る所得金額 三三四万〇〇〇〇円

右は原告の確定申告額と同額である。

(b) 有価証券の譲渡に係る所得金額 一億七三八四万七二四六円

〈1〉 原告は、昭和五九年中に日本勧業角丸証券株式会社清水支店(以下「勧角証券」という。)、山一證券株式会社静岡支店(以下「山一証券」という。)、三洋証券株式会社静岡支店(以下「三洋証券」という。)及び旧東光証券株式会社(現ユニバーサル証券株式会社)清水支店(以下「東光証券」という。)において、別表2「名義人別、売買回数・株数・売買損益」表の名義人欄「村上倉司」の「売買回数」、「売買株数」欄記載のとおり、原告の名義で一六九回にわたり合計二二一万三二四〇株の、また、同表の名義人欄「遠藤実」、「村上敏子」及び「萩原一作」の「売買回数」、「売買株数」欄記載のとおり原告以外の右三名の名義を用いて五四回にわたり合計一〇五万八八〇〇株の株式売買を行った。

〈2〉 所得税法九条一項一一号イ(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)、同法施行令二六条一項及び二項(昭和六二年政令第三五六号による改正前のもの)は、有価証券の売買を行う者のその年中における株式又は出資の売買について、その回数が五〇回以上で、かつ、その株数又は口数の合計が二〇万以上であるときは、その取引から生じた所得は、同法施行令二六条一項所定の営利を目的とした継続的行為かつ生じたものに該当するとして所得税を課する旨を規定している。したがって、〈1〉の各株式取引から生じた所得には所得税が課せられることになる。そこで、右〈1〉の各株式取引について原告名義で行われたものによる所得額とそれ以外の名義で行われたものによる所得額は次のとおりである。

〈3〉 原告名義で取引された株式に係る所得金額

一億四三四四万五三〇三円

右は、次のイ収入金額からロ取得金額及びハ譲渡費用を控除した金額であり、その内訳は、別表2の名義人欄「村上倉司」の「差引所得」欄記載のとおりである。

イ 収入金額 一九億五三四四万九八七九円

右は、右各証券会社において昭和五九年中に原告名義で取引された各株式の売付金額に係る合計額であり、その内訳は、同表の同名義人欄の「売付金額」欄記載のとおりである。

ロ 取得価額 一八億〇九九八万三一二六円

右は、右売付株式の取得価額に係る合計金額であり、その内訳は、同表の同名義人欄の「取得価額」欄記載のとおりである。

ハ 譲渡費用 二万一四五〇円

右は、右売付株式について原告が支出した収入印紙代等の費用であり、その内訳は、同表の同名義人欄の「譲渡費用」欄記載のとおりである。

〈4〉 原告以外の名義で取引された株式に係る所得金額

三〇四〇万一九四三円

右は、次のイ収入金額からロ取得金額及びハ譲渡費用を控除した金額である。

イ 収入金額 三億八一九三万七二〇三円

右は、昭和五九年中に、勧角証券において遠藤実(以下「遠藤」という。)及び村上敏子(以下「敏子」という。)名義で、山一証券において敏子名義で、三洋証券において萩原一作(以下「萩原」という。)名義で、東光証券において敏子名義で取引された株式の売付価額にかかる合計額であり、その内訳は別表2の右三名の各名義人欄の「売付金額」欄記載のとおりである。原告は、右各取引は各名義人が自ら行ったものとして、これらの収入金額について、係争年分の雑所得の総収入金額に計上せず確定申告をした。

ロ 取得価額 三億五一五二万〇二六〇円

右は、右売付株式の取得価額に係る合計額であり、その内訳は、同表の右三名の各名義人欄の「取得価額」欄記載のとおりである。

ハ 譲渡費用 一万五〇〇〇円

右は、右売付株式について原告が支出した収入印紙代等の費用の合計額であり、その内訳は、同表の右三名の各名義人欄の「譲渡費用」欄記載のとおりである。

(二) 土地の譲渡に係る分離事業所得等の金額 八四六万〇二六〇円

右は原告の確定申告額と同額である。

(三) 原告以外の名義による右株式取引の主体が原告であることについて

以下の諸事情を総合すれば、原告以外の三名の名義による右株式取引は原告によるものというべきである。したがって、それら株式取引による損益は、取引の名義にかかわらず原告に帰属する。

(1) 遠藤名義の取引について

(a) 勧角証券の遠藤名義による株式売買の注文が原告によって行われていた。

(b) 右遠藤名義の口座からの金員の出し入れを原告が行っていた。

(c) 別表3「株式売買取引に関する資金等の移動状況」表記載のとおり、原告名義の口座と右遠藤名義の口座及び敏子名義の口座との間には継続、反復しての資金の移動が存する。

(d) 勧角証券の担当者らも、遠藤名義の取引は原告が行っているとの認識を有していた。

(e) 原告が遠藤実名義を使用することについて遠藤が承諾していた。

(f) 本件更正処分当時、原告は、清水民主商工会の宮田事務局長を介して、遠藤名義により取引を含めたところで計算された損益額を被告の担当者に提示した。

(2) 敏子名義の取引について

(a) 別表3記載のとおり、敏子名義の口座は、原告名義の口座との間に資金移動があるばかりでなく、原告の借名口座である遠藤名義の口座との間にも資金移動が存する。

(b) 別表4「異名義口座による株式の売買」表その1記載のとおり、敏子名義の口座で買い付けられた株式が原告名義の口座で売りつけられている。

(c) 勧角証券の担当者は、敏子名義での取引は原告が行っていたものと認識している。

(d) 敏子名義の各口座の開設手続はいずれも原告が行い、勧角証券の敏子名義の口座開設の際の登録印鑑は、同証券の原告名義の口座開設の際の登録印鑑と同一で、「村上倉司」刻印されたものである。

(e) 原告は、昭和六一年及び昭和六二年分の所得税の修正申告において、雑所得の金額の計算上、右各年分においても唯一取引が継続していた山一証券における敏子名義での取引に係る株式譲渡益の額を自己の所得に含めている。

(3) 萩原名義の取引について

(a) 三洋証券の萩原名義による買付・売付及び代金の払込・受領等は原告が行っている。

(b) 原告は、三洋証券に対して、萩原名義を使用する旨の取引名使用届出書を提出している。

(c) 別表4その2記載のとおり、右萩原名義の口座と原告名義の口座との間に株式の移動が存する。

(d) 右萩原名義の口座の解約に係る精算金を原告が受領している。

(e) 萩原は、本件係争年分当時七九歳で、原告の義父(敏子の実父)にあたり、原告から月々受け取る五万円と同人の年金だけで生活費を賄っていたのであるから、このようなものが同人名義によるような多額の株式取引を行うことは不自然である。

(4) 敏子名義の取引についての予備的主張

仮に、敏子名義の株式取引を同人自らが行っていたものであるとしても、以下の理由により、その取引による所得は原告に帰属するものとして、課税の対象となるというべきである。

所得税法一二条は、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」として、実質所得者課税の原則を規定している。そして、一般に、社会的にみて家族を扶養すべき地位にある生計の主宰者がある場合においては、その家族構成員の生計をささえる重要な事業は、いかに家族構成員の協力があったとしても、他の特段の事情がない限り、右生計の主宰者がその家族を扶養すべき地位との関連においてこれを主宰しているものと解されるから、当該事業の収益は、右生計の主宰者に帰属するものと解するのが相当であり、株式取引の帰属に関しては、当該株式取引の資金、取引を始めるに至った経緯、取引関与の態様、程度等を考慮すべきである。

これを本件についてみれば、少なくとも株式取得に係る資金、株式売買の注文等の主導権が原告にあったことは、前記事情から明らかであるので、これによる所得は、株式取引の名義にかかわらず原告に帰属するものというべきである。

(四) 本件更正処分が制限期間内に行われたこと

(1) 原告は、前記のとおり、自らの株式取引の一部について、遠藤、敏子及び萩原の各名義を使用することにより右取引をこれらの者が行ったものと仮装し、右遠藤らの取引にかかる売買益を同人ら自らに帰属することてその所得を隠ぺいし、右仮装ないし隠ぺいした事実に基づき虚偽の確定申告書を提出した。

(2) 右のように「偽りその他不正の行為」によって国税の一部又は全部を免れた場合、国税通則法七〇条五項一号により当該申告書の提出期限から七年を経過する日まで更正処分をすることができるものであるところ、原告の係争年分に係る所得税についての法定申告期限は昭和六〇年三月一五日であり、本件更正処分が行われたのは、前記のとおり平成元年一月一八日であるから、本件更正処分は適法である。

(3) なお、同項の規定は、「偽りその他不正の行為」によって国税の一部又は全部を免れた納税者に対し、適正な課税を行うことができるように同条一項規定の更正処分の期間制限を三年から七年とすることを定めたものであるから、「偽りその他不正の行為」によって免れた税額に相当する部分にのみ限られるものではなくその所全部が更正処分の対象となると解すべきであるから、遠藤らの仮装名義の株式取引にかかる所得のみならず、原告名義による株式取引にかかる所得等をも含めたところで行った本件更正処分は適法である。

2  本件重加算税賦課決定の適法性

(一) 原告は、右1(一)、(三)(1)ないし(3)記載のとおり、真実は原告が遠藤、敏子及び萩原の名義を使用して株式売買取引を行ったにもかかわらず、それ名義による右売買取引はこれらの者が行ったものとして、その株式売却にかかる収入について、係争年分の雑所得の総収入額に計上せずに確定申告をしたものである。これは、国税通則法六八条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に規定する。国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき、確定申告書を提出したことに該当する。

(二) そして、本件更正処分により新たに納付すべき税額のうち、右隠ぺいし又は仮装したところに基づく部分に係る税額は、二一二八万一四〇〇円であるから、原告が納付すべき重加算税の額は、同法六八条一項の規定に基づき、右税額(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て後のもの)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した六三八万四〇〇〇円となる。そして、本件重加算税賦課決定による重加算税額は、別表1記載のとおり三八九万四〇〇〇円であり、右主張額の範囲内であるから適法である。

(三) 前記1(四)のとおり、原告は、「偽りその他不正の行為」によって国税の一部又は全部を免れた場合にあたるから、国税通則法七〇条五項により、係争年分の法定申告期限から七年を経過する日より前に行われた本件重加算税賦課決定は適法である。

3  本件過少申告加算税賦課決定の適法性

(一) 原告が納付すべき過少申告加算税の額は、次の(1)及び(2)の金額の合計額九〇六万六五〇〇円である。そして、本件過少申告加算税賦課決定による過少申告加算税額は、別表1記載のとおり八六二万四五〇〇円であり、右所得税額の範囲内であるから適法である。

(1) 国税通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)の規定に基づき、新たに納付すべきこととなった税額一億一八一四万四六〇〇円から、重加算税の計算の基礎となった税額二一二八万一四〇〇円を控除した残額九六八六万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満端数切捨て後のもの)に、一〇〇分の五を乗じて計算した金額 四八四万三〇〇〇円

(2) 同法六五条二項の規定に基づき、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった右税額一億一八一四万四六〇〇円のうち、同条三項二号に規定する原告の期限内申告納税額一二三八万五二六九円を超える部分に相当する金額一億〇五七五万九三三一円から、右重加算税の計算の基礎となった部分にかかる右税額二一二八万一四〇〇円を控除した残額八四四七万円(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額

四二二万三五〇〇円

(二) 原告は、株式取引による所得に対する課税要件を十分知悉していたものであり、同要件を、一回の売買で、一銘柄当たり二〇万株以上の取引がされた場合にのみ課税対象とされると誤解していたものでないから、国税通則法七〇条二項に定める「正当な理由」がある場合に該当せず、したがって、右2(三)のとおり、係争年分の法定申告期限から七年内に行われた本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

二  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)総所得金額は争う。

(二)  同(一)(1)、(2)、(3)(a)、(b)〈3〉及び(二)はいずれも認める。

(三)  同(一)3(b)〈1〉のうち、別表2記載のとおりの証券会社との間に原告名義並びに遠藤、敏子及び萩原名義による株式取引が存し、その売買回数及び売買株数が同表記載のとおりであること、同〈2〉のうち、原告主張のとおりの規定が存すること、また、同〈4〉のうち、遠藤、敏子及び萩原名義による株式取引による損益が同表記載のとおりであることはいずれも認めるが、その余は否認する。それら原告名義以外の者の名義による株式取引は、いずれもその名義人によって行われたものであり、その損益はそれぞれそれらの者に帰属する。

2  同(三)は争う。以下の事情によれば、原告名義以外の口座による取引はそれぞれそれらの者に帰属することは明らかである。

(一) 遠藤名義の取引について

遠藤は、原告から、利益が出た場合はその一〇パーセントを還元するとの約束で資金を借り入れ、昭和五九年九月ころからその資金で、自らの指示、計算に基づき株式取引を行ったか、次第に欠損が増え、最終的に三〇〇〇万円程の欠損が生じたために、昭和六〇年六月ころに、遠藤名義の株式をすべて処分して、原告に返済した。

別表3記載のとおり遠藤名義の口座と原告名義の口座との間に資金移動が存することは認めるが、それは右の原告から遠藤への貸付や遠藤からの返済によるものに他ならない。

(二) 敏子名義の取引について

敏子の勧角証券における取引開始時の資金三七八万円は、同人の預金一一〇〇万円の一部を充てたものであって、同人の意思と計算に基づき口座を開設したものである。

なるほど、敏子の勧角証券の口座から昭和五九年九月七日に出庫した三井ハイテックの株式二〇〇〇株が山一証券の原告名義の口座に入庫しているが、それは敏子が後に開設する山一証券の自己名義の口座(同年一二月一二日開設)に入庫するよう依頼していたにもかかわらず、同証券の担当者が誤って右原告名義の口座に入庫してしまったものである。その株式分については後に原告において精算した。

(三) 萩原名義の取引について

原告は、敏子の父である萩原が、高齢であったため、その生活援助に代替するものとして、同人が希望する株式取引のために、三洋証券との取引開始に当たり五〇〇万円を貸し付けたほか、昭和六〇年一一月に取引を終了するまでの間、資金の貸付や原告所有の株式の担保提供等を行ってきたが、右取引終了段階で、全て決済し、担保に供した株式は全て返還を受け、貸付けた資金についても、欠損として残った六〇万円以外は返済を受けた。

(四) 敏子名義の取引についての予備的主張について争う。

3  抗弁1(三)は争う。右1、2のとおり原告に「偽りその他不正な行為」は存在しない。原告は、所得税法九条一項一一号イ(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)、同法施行令二六条一項及び二項(昭和六二年政令第三五六号による改正前のもの)の規定を知らなかったために、原告名義による株式取引による所得を申告しなかったに過ぎない。すなわち、原告は、証券会社の担当者から、一銘柄で一回の売買が二〇万株以上でない限り、申告する必要はない旨の指導を受けていたところ、それに該当する取引が存在しなかったために、原告名義による株式取引に基づく収入を申告しなかったのである。したがって、係争年分について、その法定申告期限から三年間の期間を経過した後にされた本件更正処分は違法である。

4  抗弁2は争う。前記のとおり遠藤、敏子及び萩原名義による株式取引は、それらの者によって行われたものであり、その損益はそれぞれそれらの者に帰属する。したがって、原告がそれら株式取引による所得を隠ぺいし又は仮装をしたことはない。原告名義による株式取引の損益が課税対象となるのであれば、原告名義以外の取引による損益を隠ぺい又は仮装をする必要性は全く存しない。

5  抗弁3は争う。原告は、右3記載のとおり、一銘柄で一回の売買が二〇万株以上でない限り株式取引による所得の申告をする必要はないと信じていたところ、その要件に該当する取引がなかったので、原告名義による株式取引に基づく所得を申告しなかったに過ぎない。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

一1  請求原因1の事実及び抗弁1(一)のうち(1)事業所得金額(一九三七万八六七〇円)、(2)利子所得金額(一五万七三四八円)、(3)雑所得の金額のうち(a)金銭貸付による利息収入に係る所得金額(三三四万〇〇〇〇円)、(b)〈3〉原告名義による株式取引に係る所得金額(一億四三四四万五三〇三円)及び(二)の土地の譲渡に係る分離事業所得金額(八四六万〇二六〇円)についてはいずれも当事者間に争いがない。

2  原告名義による係争年中に行われた株式取引における売買回数及び売買株数が別表2のとおりであること(抗弁1(一)(3)(b)〈1〉)、また、遠藤、敏子及び萩原各名義による株式取引について、それら株式取引の損益が原告に帰属するとの点を除き、それら名義による株式取引が各証券会社との間に存し、係争年中に行われたその売買回数、売買株数(同〈1〉)及びそれら株式取引によるそれぞれの損益(同〈4〉)がいずれも別表2記載のとおりであること自体は当事者間に争いがない。

3  そして、所得税法九条一項一一号イ(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)、同法施行令二六条一項及び二項(昭和六二年政令第三五六号による改正前のもの)によれば、有価証券の売買を行う者のその年中における株式又は出資の売買について、その回数が五〇回以上で、かつ、その株数又は口数が二〇万以上であるときは、その取引から生じた所得は、営利を目的とした継続的行為から生じたものに該当するとして所得税を課せられるところ、右争いのない原告名義による係争年中に行われた株式取引における売買回数(一六九回)及び売買株数(二二一万三二四〇株)からすれば、原告以外の名義による株式取引の原告への帰属についての判断をするまでもなく、原告名義による株式取引による所得が課税対象となることは明らかである。

二  別表2記載の原告以外の三名の名義による株式取引が原告に帰属するものであるか否かについて検討する。

1  遠藤名義の取引について

(一)  前記のとおり、遠藤名義で勧角証券との間で別表2のとおりの株式取引が存したことは争いがないところ、甲第一七号証、乙第五号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証、第二五号証、第四〇号証、証人遠藤実の証言(一部)、原告本人尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 右遠藤名義の口座は、原告が開設し、その取引の注文は全て原告が行って、決済の金員も全て原告の事務所で原告との間で受渡しがなされ、遠藤がこれに関与することはなかった。また、これらの事情から証券会社担当者も同口座が原告の口座であると認識しており、同口座については顧客管理台帳の上でも顧客名欄には遠藤の氏名の他に「村上不動産分」と注記されていた。

(2) 別表3記載のとおり、遠藤名義の口座との原告名義の口座との間には反復継続しての資金の移動が存するが、敏子名義の口座との間にも同様の資金移動が存し、その金額は三九〇〇万円に上がっている。

(3) 本件更正処分に先立つ調査において、遠藤は、当初は遠藤名義の口座が原告への名義貸しの口座である旨申述し、かつ、原告は、清水民主商工会の宮田事務局長を通じて、遠藤名義の口座に係る株式取引をも含めて原告の損益とした資料を担当係官に提示した。

(4) 遠藤は、遠藤名義の口座が開設されてから間もないころ、自らが株式取引を行うについて、遠藤名義の口座による取引との混同を避けるために、妻の遠藤明代名義を用いて口座を開設して株式取引を行ってきた。

(二)  ところで、甲第一一号証中の株売買についての説明書、第三七号証、第三八号証の一、二、乙第二三、二四号証、証人遠藤実の証言(一部)、原告本人尋問の結果によれば、右株式取引は遠藤自身が行うために、(1)利益の一〇パーセントを原告に還元する。(2)取引する銘柄等については原告と相談する、(3)一年毎に利益を分配する、(4)信用取引だけを行うとの約定の下、原告から資金を借り入れて口座を開設し、また、その後も原告から資金を借りたり、担保として株式の提供を受けながら、遠藤が株式取引を行ってきたもので、昭和六〇年六月ころに約三〇〇〇万円の損失が生じたために、株式の名義のすべてを原告名義に変更して、同口座をそのまま原告に引き継いで貰ったが、右貸借等に関しては何ら書面を作成しなかったというのである。

しかしながら、右各証拠は、右事実を前提とすると原告は遠藤に対して多額の融資等を行っていたことになるが、そのような取引に関して何ら資料を作成していないこと自体不自然であり、また、遠藤証言については、他方で本件更正処分に先立つ調査において遠藤名義の口座は原告の借名口座であると申述したことを認める供述をし、そのような申述をした理由として「非常に気持ちが動揺して、その場の責任逃れみたいなことを言ってしまった」からであると説明しているが、右説明はいかにも取って付けた印象を拭えないばかりか、原告が前記宮田を通じて、遠藤名義の口座に係る取引をも含めて原告の損益とした資料を提供していることとも相反するもので不自然というほかないなど、全体として裏付けを欠き曖昧であり、かつ、前記認定の諸事実に照らして直ちに採用し難いところである。更に、右各証拠のいう約定の内容を個別的に検討してみても、右(1)の利益の一〇パーセントを原告に還元するとの約定については、乙第四〇号証及び証人山口広昭の証言によれば、原告による株式取引についての税務調査が始まった当初の昭和六三年七、八月ころには、前記宮田は、遠藤名義の口座は、税金のための借名ではなく、原告や遠藤らが参加している「清水市を考える会」の活動が無給のために、利益が出た場合にはそれを遠藤に分配するためのものである旨を述べていたのであって、遠藤が原告に対して利益を分配するとの説明はされていなかったことが認められ、また、(2)の取引する銘柄等については原告と相談するとの約定については、それ自体が遠藤名義の口座は原告の口座であることを窺わせるものであり、(3)の一年毎に利益を分配するとの約定は結局実施されることはなく、(4)の信用取引だけを行うとの約定の点も、そのような約定がされた趣旨自体明らかではないが、株式取引経験の殆どない遠藤(同人の証言)との間で信用取引だけを行うとの約定をすることは極めて不可解である上、実際には同口座において現物取引が一度ならず行われていることなどに照らすとき、右各証拠は採用できない。

(三)  前記(一)認定の事情を総合すれば、遠藤名義の口座は、原告が自己のために開設した借名口座であり、同口座における取引の損益は原告に帰属するものと認めるのが相当である。

そして、それによる係争年分の所得額が別表2記載のとおりであることは争いがなく、その所得額は一七六七万六四七三円である。

2  敏子名義の取引について

(一)  前記のとおり敏子名義で勧角証券、山一証券、東光証券で別表2のとおりの株式取引が存したことは争いがないところ、甲第四〇号証の一、二、乙第五、六号証の各一、二、第八号証の一、二、第九、一〇号証、第一一号証の一、二、第一八ないし二〇号証、第二五号証、第四〇号証、第四二号証及び証人山口広昭の証言及び並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 敏子名義の右各取引口座は、勧角証券の口座が昭和五九年六月一五日、山一証券の口座が昭和五七年一一月一九日に、東光証券の口座が昭和五五年三月二七日にそれぞれ開設されたが、それら口座の開設は原告が行ったもので、いずれの届出印鑑も原告名義の取引口座の届出印鑑と同一の「村上倉司」と刻された印鑑が使用されている。

(2) 敏子名義の口座との間には、別表3記載のとおり、原告名義の口座との間に昭和五八年九月一二日から昭和五九年九月一二日までの間に七回にわたって多額の資金移動が行われているばかりでなく、右1(一)(2)のとおり遠藤名義の口座との間にも昭和五九年一一月中に二回にわたり合計三九〇〇万円もの資金移動が存する。

(3) 更に、原告名義の口座とは、別表4その1記載のとおりの株式の移動が存する。

(4) 原告は、本件更正処分に先立ち、被告の担当者から、右敏子名義の各口座における株式取引の損益が原告に帰属することを前提として、本件係争年分、昭和六一年分、昭和六二年分の各確定申告について修正申告をするように示唆された際、本件係争年分については行わなかったものの、昭和六一年分、昭和六二年分については、右敏子名義の各口座の株式取引が原告に帰属することを前提として修正申告を行った。

(5) 敏子名義の右口座での取引の注文はいずれも原告が行っていたが、東光証券との取引においては、原告は同証券に自らの名義の口座を開設しているにもかかわらず、それは全く利用することなく、専ら敏子名義の口座を利用していた。また、右敏子名義の口座に関して証券会社の担当者はいずれも原告の口座であるとの認識を持ち、したがって、敏子名義による取引の売買報告書も原告に送付されていた。

(二)  ところで、証人村上敏子及び原告は、右敏子名義の口座による株式取引は敏子自らの計算において行われたものであり、その損益も同人に帰属する旨供述する。しかし、その供述は全体として具体性を欠き、曖昧である上、右(一)(4)のとおり、原告は、昭和六一年分、六二年分の所得税の申告においては、敏子名義の口座に係る取引をも自己の取引として、修正申告しているのであって、このことは同修正申告が税務当局の勧めに応じたものであるとしても、右敏子名義の口座が係争年分より後において始めて原告の借名口座となったとの事情を認めるに足りない本件においては、右各供述と矛盾することと言わざるを得ない。したがって、右各供述は採用の限りではない。

なお、付言するに、証人村上の供述中には、勧角証券の敏子名義の口座に昭和五九年八月二一日に振り込まれた三七八万円は、敏子がその所有土地の売却代金一一〇〇万円余を昭和五八年一月三一日に原告に貸与していたので、その一部の返済を受けて、これを資金として開設したものであるとの部分が存する。なるほど、甲第一三号証、第二七号証の一、二によれば、敏子が所有する土地を昭和五七年七月二八日に代金一〇八一万八〇〇〇円で売渡したこと、昭和五七年八月一三日に同人の中京銀行清水支店の預金口座に一〇三二万六七三二円が預金されていることが認められるが、同預金口座の通帳には、昭和五七年三月七日から昭和五八年一月三一日までに一二回の払戻しにより合計一一二三万三一六八円が払い戻された旨の記載が存するものの、昭和五八年一月三一日に右預金が払い戻されたことを示す記載はなく、しかも、右供述は原告本人の供述とも異なる上、変転としていて採用できず、かえって、乙第五号証の一、第九号証によれば、右金員は同証券の原告名義の口座から払戻された三七八万円が当てられたものと認められるのである。また、右証人村上及び原告の各供述によれば、証券会社担当者の過失によって、敏子名義の口座から出庫した株式が原告名義の口座へ入庫したことがあり、更に証人村上の供述によれば、勧角証券の敏子名義の口座にあった三井ハイテックの株式二〇〇〇株を昭和五九年九月一二日に出庫し、自宅で保管していたが、昭和六〇年一〇月一一日、これを山一証券の敏子名義の口座の入庫する旨を依頼したところ、同証券の担当者が誤って原告名義の口座に入庫してしまったが、一〇〇〇株は平成元年三月七日藍澤証券の敏子名義の口座に入庫して返還を受け、残余の一〇〇〇株については平成元年一月三〇日に原告が売却し、その代金を同証券会社の敏子名義の右口座及び駿河銀行の敏子名義の預金口座に入金して返還を受けた旨供述する。しかし、右証券会社の担当者が両名義の口座を誤ったということ自体、両名義の口座が同一人の口座であると認識していたことを窺わせるばかりでなく、証券会社の誤りによる入庫であるならば、単に本来入庫すべき口座に戻せば足りることであるのに、右村上の供述する原告の返済方法は、いかにも迂遠な方法である上、右供述する一〇〇〇株の売却代金を敏子名義の右各口座に分けて入金した方法やその額がその売却代金の額とも一致していないことは不自然であることに照らして直ちに採用し難いところである。

(三)  前記(一)認定の諸事情を総合すれば、敏子名義の口座は、原告が自己のために開設した借名口座であり、同口座における取引の損益は原告に帰属するものと認めるのが相当である。

そして、それによる係争年分の所得額が別表2記載のとおりであることは争いがなく、その所得額は八三九万七七五五円である。

3  萩原名義の取引について

(一)  乙第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第一二号証の一ないし三、第一四ないし第一七号証、第二二号証、第四〇号証第四四号証、証人山口広昭の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、三洋証券と萩原名義の取引口座を開設するに際して、自己が同名義を使用して取引をする旨の取引名使用届出書を差し入れている。

(2) 萩原名義の口座の取引の注文等一切を原告が行っており、原告の口座と萩原名義の口座との間には、別紙4その2記載のとおり、相互に株式の移動が存する。

(3) 原告は、萩原名義の口座を解約するに際して、その精算金を受領している。

(二)  原告の供述中には、高齢な、妻敏子の父である萩原の生活援助の代替措置として、同人の希望する株式取引のために資金を貸与し、かつ、同人の代理人として同口座を開設したものであり、その株式取引も萩原が自らの計算で行ってきたもので、原告がそれら取引をし、また、精算金を受領したのは、萩原の代理人として行ったものである旨及び萩原名義の口座と原告名義の口座との間の株式の移動については、証券会社の担当者の取扱上の過誤である旨の部分が存する。

しかしながら、前記(一)(1)のとおり、同口座開設にあたっては、原告自身が証券会社に対して自らの口座である旨を明示して開設したものであること、そもそも、親を扶養するに際して、親名義の株式取引口座を開設し、資金を貸与して株式取引をさせ、その利益をもって扶養の資金に当てるなどという方法をとること自体極めて不自然にして不可解であること、そして、同口座の取引による利益が萩原の生活援助として利用された形跡は何ら存しないことなどに照らすと、右原告の供述は到底採用できない。

(三)  右(一)で認定した事情を総合すれば、萩原名義の口座は、原告が自己のために開設した借名口座であり、同口座における損益は原告に帰属するものと認めるのが相当である。

そして、同口座における係争年分の所得額が四三二万七七一五円であることは前記のとおり争いがない。

4  以上の右遠藤、敏子及び萩原の三名の名義の口座における係争年度における株式売買による所得額は合計三〇四〇万一九四三円である。そして、右各口座における株式売買益による所得が原告に帰属する以上、これについて所得税が課税されることは前記一3で判示したところから明らかである。

三  本件更正処分の適法性

1(一)  右に認定したとおり、原告は遠藤、敏子及び萩原の各名義を使用して株式取引を行いながら、それら取引による利益はそれらの者に帰属するとしてその所得を申告せず、かつ、原告本人尋問によって認められる。原告が係争年分の税務調査において原告名義の取引のうち勧角証券の口座における取引についても当初は明らかにしていなかったことなどを勘案すれば、原告が、原告名義以外の遠藤、敏子及び萩原名義の各口座における株式売買によって得た所得を申告しなかったのは、それら名義を使用することにより真実の取引主体及び所得の帰属主体を隠ぺい又は仮装したものというべきである。

(二)  なお、原告は、株式売買益の所得については一回の売買株数が一銘柄で二〇万株を超える取引があった場合に課税される旨を証券会社の担当者から指導され、株式売買益の課税要件を誤解していた旨主張し、甲第三八号証の一、第四二号証及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分が存する。しかしながら、乙第二〇号証によれば、東光証券の担当者はかねてから課税要件について抗弁1(一)(3)(b)〈2〉記載のとおり原告に話していたことが認められ、また、原告本人尋問の結果によっても、原告の株式取引歴は係争年において既に八年程度に及んでいること、証人山口広昭の証言によれば、原告は係争年分の税務調査に際しては、株式売買益の課税要件について右主張のような弁明を何らしていなかったことがそれぞれ認められる上、右のような形式的な課税要件で、しかも一般的に知られた課税要件について、証券会社の担当者が誤って教示するなどということは通常考えられないことなどに照らすと、前記の各証拠は採用できない。

また、原告は、原告名義による株式取引による株式売買益自体がすでに課税対象となるのであれば、他人名義を用いて株式取引を行うことによってその所得を隠匿して課税を免れる必要もなかったと主張する。しかし、本件係争年当時において有価証券の売買に係る雑所得が総合課税の対象となり、累進税率によって課税されていたことからすれば、他人名義を用いて株式取引を行い、それによる所得を隠匿することも、課税を免れる方法としては十分意味のあるものというべきであるから、右原告の主張は採用できない。

(三)  以上によれば、原告が右原告以外の名義による株式取引の所得を隠匿したことは、国税通則法六八条一項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するところ、このことは、国税通則法七〇条五項の「偽りその他不正の行為」によって虚偽の申告をした場合に該当するというべきであるから、その場合の更正処分のなしうる期間は、係争年分の法定申告期限である昭和六〇年三月一五日から七年間であるところ、本件更正処分が行われたのが平成元年一月一八日であるから、その点に瑕疵しない。

2  納付すべき税額

(一)  前記一1記載の争いのない各所得額及び二1ないし3で認定した原告名義以外の名義による株式取引による所得額を前提とすると、原告の係争年分の総所得金額は、(1)事業所得一九三七万八六七〇円、(2)利子所得一五万七三四八円、(3)雑所得合計一億七七一八万七二四六円(ただし、(a)株式の譲渡による所得一億七三八四万七二四六円及び(b)金銭の貸付による所得三三四万円の合計額)である一億九六七二万三二六四円であり、土地の譲渡に係る分離事業所得(租税特別措置法第二八条の四)は八四六万〇二六〇円である。

(二)  乙第二六号証の一、二によれば、所得控除の額は二五二万六四七〇円であると認められるから、右(一)(1)ないし(3)の課税総所得金額は、一億九六七二万三二六四円から右所得控除の額である二五二万六四七〇円を控除した一億九四一九万六〇〇〇円となり(一〇〇〇円未満切捨て)、これを基礎として所得税法八九条(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)により算出すればその税額は一億二四〇一万五七〇〇円である。

(三)  右(二)の土地の譲渡による分離事業所得八四六万円(一〇〇〇円未満切捨て)についての税額は、租税特別措置法二八条の四、同法施行令九条一号、四号により算出すれば、六五一万四二〇〇円である。

(四)  甲第四号証、第一七号証、乙第二六号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、右(一)(2)の利子所得の源泉徴収税額は三万一四六九円であると認められるから、これを右(二)及び(三)の税額の合計一億三〇五二万九九〇〇円から控除した一億三〇四九万八四〇〇円(一〇〇円未満切捨て)が係争年分の所得税として原告が納付すべき金額となる。

(五)  本件更正処分における総所得金額、土地の譲渡による分離事業所得金額及びこれを前提とする納付すべき税額は、以上認定したところの総所得金額、土地の譲渡による分離事業所得金額及び納付すべき税額の範囲内であるから適法である。

四  本件重加算税賦課決定の適法性

1  右のとおり、本件更正処分は適法であるところ、前記認定のとおり、遠藤、敏子及び萩原名義の各取引口座は、いずれも原告が開設した借名口座であり、それら口座による株式売買に係る所得は原告に帰属するにもかかわらず、原告は、それら口座による株式売買に係る係争年分の所得三〇四〇万一九四三円を申告しなかったのであるから、原告の行為は、国税通則法第六八条一項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当するというべきである。

2  右に対する重加算税は、次の(一)の額から(二)の額を控除した一二九八万五七〇〇円(国税通則法一一八条三項により一万円未満切捨て)を、その仮装隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したことにより過少に申告された部分に対応する税額として、過少申告加算税に代え一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した額三八九万四〇〇〇円を賦課決定したものであるから、本件重加算税賦課決定は適法である。

(一)  本件更正処分により納付すべきこととなった税額

一億一七七八万三六〇〇円

(二)  仮装したところを前提として計算した税額

一億〇四七九万七九〇〇円

本件更正処分において認定された、課税総所得金額一億七六〇三万二〇〇〇円から同処分において認定された隠ぺいされた所得金額一八五五万一二四二円を控除した。仮装したところを前提とした課税総所得金額一億五七四八万〇〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)について前記三2(二)と同様の方法により算出した税額は九八三一万五二〇〇円となる。これに右土地の譲渡による分離事業所得に対する税額六五一万四二〇〇円を加えた税額一億〇四八二万九四〇〇円から源泉徴収税額三万一四六九円を控除した額(一〇〇円未満切捨て)。

3  なお、本件重加算税賦課決定が国税通則法七〇条五項が規定する制限期間内に行われたことは前記三1に判示するとおりである。

五  本件過少申告加算税賦課決定の適法性

1  本件更正処分は適法であるところ、原告は、同処分において認定された総所得額一億七八五五万九一一四円から申告総所得額二二八五万二八三〇円及び重加算税の対象となる原告以外の名義による株式取引による所得一八五五万一二四二円を控除した、同処分において認定された原告名義による株式売買に係る所得一億三七一三万一八五四円(甲第四号証、第一七号証)を含む合計一億三七一五万五〇四二円を申告しなかったものであり、また、原告が有価証券売買益に係る所得の課税要件についての規定を知らなかったために、右の原告名義の株式取引による所得を申告しなかったとの主張が採用できないことは前示のとおりであり、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるということはできない。

2  原告が納付すべき過少申告加算税の額は、次の(一)と(二)の額を加算した八六二万四五〇〇円であるから、これと同額の本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

(一)  同法六五条一項の規定に基づき、本件更正処分により新たに納税すべきことになった税額一億〇五四二万九八〇〇円から前記重加算税の対象となる税額一二九八万円を控除した後の税額九二四四万円(同法一一八条三項により一万円未満切捨て)に一〇〇分の五を乗じた金額四六二万二〇〇〇円。

(二)  同法六五条二項により右税額一億〇五四二万九八〇〇円のうち、期限内申告税額一二三八万五二六九円(原告の申告納税額一二三五万三八〇〇円に源泉徴収税額三万一四六九円を加えた額)を超える部分に相当する金額九三〇四万四五三一円から右重加算税の対象となる額一二九八万五七〇〇円を控除した八〇〇五万円(同法一一八条三項により一万円未満切捨て)に一〇〇分の五を乗じた金額一〇〇万二五〇〇円。

3  なお、本件過少申告加算税賦課決定が国税通則法七〇条五項の制限期間内に行われたことは前示三1で判示したとおりである。

六  以上のとおり、本件各処分は適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する。

訴訟費用につき、行訴法七条、民訴法八九条各適用。

(裁判官 西島幸夫 裁判官 前田巖 裁判長裁判官吉原耕平は、差支えのため署名押印することができない。裁判官 西島幸夫)

別表1

本件課税処分の経緯

〈省略〉

別表2

名義人別 売買回数・株数 売買損益

〈省略〉

別表3

株式売買取引に関する資金等の移動状況

〈省略〉

別表4

その1 異名義口座による株式の売買

〈省略〉

その2 異名義口座による株式の移動

〈省略〉

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